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Channel: こころとからだがかたちんば
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音楽日誌:Pモデル「パースペクティヴ」'82

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最近、やっと冬眠から明けた、という動物的感覚がある。
だからというわけじゃないが、しばらくパット・メセニー的な音をよく聴いていた。勝手にそう呼んでる「パット・メセニー的音楽」とは、パット・メセニー音楽そのもののいわずもがなの素晴らしさではなくて、表層的に似ている音楽を指している。その類は実に幅広く、地中海周辺の音楽なんかがかかっていると、「これって、パット・メセニーかな?」といった錯覚にはまることが多い。

しかし、そんなさわやかな音楽をいくら聴いても、自分の中にさわやかさが生まれるよりも、味のしないモノを飲食したような物足りなさがあって、それはトイレに行ったらおしっこと流れてしまうような薄さみたいに感じる。
記事のタイトルがPモデルなのに、何を長々と言っとる、と田中や金子や清水は言うだろう。言われなくても、そこでやはり「パット・メセニー的音楽」を聴いていたのをやめ、聴く音楽として選び直したのはPモデルだった。さわやかな音楽では気持ちが満ち足りない、というのは、私がねじれた人間であって、やはり毒や濁った色気が無い無臭な音楽で救われるような人間ではないからである。(もしくは、心身がそういうモードの時期、というときもあるが。)

***

春めいてきた中でPモデルが聴きたくなったのは、高校生になった1982年の春、多少蒸し暑い日が出始めた頃、ラジオから流れるPモデルをエアチェックしていた記憶が蘇ってきたからであろう。音楽は、かつてそれを聴いていた日時や季節や天気が似た瞬間、脳裏から立ち上がってくるものだ。
1982年春、Pモデルのアルバム「パースペクティヴ」を繰り返し聴いていた。

当時FM東京の17時から20分くらい、新譜から一日2曲だけかかり、1週間で完結する、という番組があった。ここで「パースペクティヴ」が掛かり、エアチェックしたテープをアルバム代わりとしてしばらく聴いていた。全曲は掛からなかったから、全てを聞いたのは、CD時代になってからのことだ。

1980年YMOが爆発的ヒットしたとき、日本のテクノポップの一角として紹介されたPモデル。テクノポップとひとくくりにされたバンドの一つだったが、微妙に違う。Pモデルは一枚ごとにより新しい音楽を、と格闘続け、この1982年3月1日発売された「パースペクティヴ」での彼らのテーマはリズムだった。
当時、アフターパンク/ニューウェーブの音楽が日々刷新され、マグマのように動き続ける中、リズムやドラムの音は重要なテーマ。
音作りを競い合う中で、個人的に素晴らしい音として思い出されるのは、ピーター・ゲイブリエル、フィル・コリンズ、幸宏のゲートリヴァーヴ、YMO、ブライアン・イーノの一連のプロデュース作品、そしてジョン・ライドン率いるPIL(パブリック・イメージ・リミテッド)などなど、挙げるとキリがない。

Pモデルの「パースペクティヴ」を最初聴いた頃、これはてっきりPILの影響下で生まれたアルバムと思っていた。階段の踊り場で録音したという残業音が強いドラム音が強烈。言葉遊び的歌詞や絶妙な平沢進のアクセント強いボーカルに、強いアタック音のドラムが合わさる。画びょうを置いたスネアを叩くなど様々な音楽実験もなされていた。全9曲、34分という短いアルバムだが、凝縮され簡潔にまとまっていて、何回も繰り返して聴いていても飽きず、スルメ式に快楽に導かれていく。

当時アルバムを聴いた人からはPILとの関連した質問が多く出たが、平沢進自身はPIL(「フラワーズ・オブ・ロマンス」)を聴いたことあるが、意識していなかったという。当時こういったシンクロニシティがあちこちで発生している。時代の流れがこのようなオリジナリティある音像に向かわせたとも言える。40年経つが、今も通用する良い毒を持つ作品である。「のこりギリギリ」という曲が当時とても刺さり、エアチェックしたSONYの(一番安いカセットテープ)CHFで繰り返し聴いてた。今もこの曲もこのアルバムも聴き出すとクセになる。




■Pモデル「のこりギリギリ」1982■

色とりどりにのこぎり鳥は メートル法の部屋を飛ぶ
愛なんぞじゃありゃしない まして正義なんぞじゃありゃしない
カガミがあるだけ カガミがあるだけ
カガミがあるだけ カガミがあるだけ

のこぎり鳥は どこ 義理欠いた
底 意地とれて のこりギリギリ

きめこまやかにのこぎり鳥は 見える角度で姿を変える
うそなんかじゃありゃしない ましてほんとうなんかじゃありゃしない
日記があるだけ 日記があるだけ
日記があるだけ 日記があるだけ

のこぎり鳥は どこ 義理欠いた
底 意地とれて のこりギリギリ

意気揚々とのこぎり鳥は チェス盤上をねりあるく
敵なんぞはいやしない まして味方なんぞはいやしない
恐怖があるだけ 恐怖があるだけ
恐怖があるだけ 恐怖があるだけ

のこぎり鳥は どこ 義理欠いた
底 意地とれて のこりギリギリ

時はやおそくのこぎり鳥は 直線上の視界の奴隷
いちぬけたいねさようなら ましていちぬけたいねさようなら
言葉があるだけ 言葉があるだけ
言葉があるだけ 言葉があるだけ

のこぎり鳥は どこ 義理欠いた
底 意地とれて のこりギリギリ

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